Nature Photograph & Essay  里山自然探訪 2004年5月17日号
                           撮影:神戸市西区/2004年5月15日 タマシギ
 
立夏を過ぎ、神戸の水田地帯にも田植えの季節がやって来た。代掻きを終えた田に張られた水は、早朝のまだ明けやらぬ薄ぼんやりとした明かりを受け、方形の鏡となって鈍く銀色の光を放っている。すでにイネの植えられた田には、コサギやコチドリなどの水鳥たちが早速やって来て、薄黄緑色の初々しいの苗の列の合間をぬい歩き採餌に余念がない。
 走梅雨の頃、いつもはほとんど姿を見せてくれないのに、田植えを待ちかねたように決まって姿を表すのはタマシギのお熱いカップル。早朝や夕暮れの畦やまだ草丈の低い田の中で、仲睦まじくペアーで行動するのを見る絶好の季節である。
 見た目は熱愛の夫婦に見えるが、これも産卵までの3、4日の短い仲で、実は凄まじい生活を送っている。多くの鳥とは逆に、雌が派手な色彩で体も大きく、繁殖期の夜コォーッ、コォーッと鳴き続けて雄を呼ぶのは雌。両翼を真上に立ててディスプレイして雄を誘い、番となって3、4日の後に雄の作った巣で産卵すると、さっさと別れて他の雄を求めて去って行く。だから、雛を育てるのは当然の事ながら残された雄の役目。孵化後間もなく歩き出す雛たちは、巣立つまでの20日位を子煩悩のお父さんにくっついて、父子だけの日々を送るのである。
 タマシギの雌、何とも恋多き女のようだが、草丈の低い湿地や田植え間もない水田など、外的に狙われやすい環境で営巣する悪条件をカバーする戦略なのだ。 雄と雌の性比は3:1で雄が多い。雌が多くの雄と番となって、沢山の雄に育雛を任せることで、繁殖効率高めている分けで、色恋に溺れる自堕落な女では決してないのである。
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