Nature Photograph & Essay  里山自然探訪 2004年8月12日号
                                             撮影:神戸市西区/2004年8月10日
シオカラトンボ
 一週間ほど前から、庭にシオカラトンボの雌が住み着いている。仕舞い忘れのハーブの支柱が居心地が良いようで、いつもここを根城に行ったり来たりを繰り返している。
 数日前、朝刊を小脇に庭を眺めていると、その支柱にこんどは若々しい雄が止まっていた。では、この前雌と思ったのは、雄の未熟個体だったのだろうか。それにしてはあまりに急に色が変わったものだ。
 淡い褐色に黒い斑紋の雌を、麦わらの色に似ているので俗にムギワラトンボと呼ぶ。これをシオカラトンボとは別の種類と思う人も多いが、塩をまぶしたような青い体のシオカラトンボと同じれっきとした「シオカラトンボ」なのだ。羽化後間もない雄は麦わら色の雌によく似ていてるが、成熟につれ青みを帯びた灰色になり、すっかり白粉で覆われた立派な雄のシオカラトンボとなる。成熟した雄の色彩は、まるで白い塩を絡めた塩辛昆布のようなので「塩辛蜻蛉」の名がついた。
 この数日で、先日まで雌の色だったのが驚くほど急激に塩辛色になるものだと不思議に思っていたら、今日は近くのブルーセージの天辺に雌が止まっている。どうやら、最初雌の居た場所に、後で雄がやって来ただけのことのようだ。
 世の中に変わり種は尽きない。希に、雌で雄と同じ塩辛色の個体も生まれるらしい。
雄の複眼は蒼色。雄型の雌は普通の雌と同じ緑だから、目をしっかり見ればダマされることはない。人も虫も女好きは一緒。普通、雄の縄張りに雄が来れば直ぐさま追い払う。でも、雄型の雌は追い出されることはなく、しっかりなわばりに受け入れるというから面白い。
 まぁ、この雌は麦わら色の所謂雌のようだから、雄がしっかりここで成熟したら、まもなくカップルになることだろう。「まてよ、目の色を見るのを忘れていた。まさか、蒼色ではなかったよな・・・。」
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