Nature Photograph & Essay  里山自然探訪 2004年12月31日号
                                             撮影:神戸市西区/2004年12月18日
冬の蛇/シマヘビ
 今年も暖冬なのだろう、師走になっても暖かな日が続く。畦や土手にはまだ青草が混ざり、まるで盛りのように咲くヒメジョオンやハキダメギクが冬田に彩りを添える。冬至を控えてなお秋を引きずる風景に驚きながら進む畦の縁に、使い古しの麻縄が束ねられて落ちている。近づいてよく見ると縄などではなく、紛れもない生きたシマヘビ。近づき過ぎたことにはたと気づき後ずさりする。
 例年であれば、シマヘビは11月上旬頃からぼちぼちと越冬に入るようだ。だから、12月半ばにひなたぼっこをする姿に出会うのは希で、奇異なこと。病気の蛇が越冬中に巣穴を出、日光浴をすることはあるらしいが、見る限りいたって健康な個体のようだ。今月は中旬になっても平均気温は15度を越え、平年の11月並の陽気である。この「冬の蛇」もやはり温暖化現象の影響なのだろうか。
 蛇を見かける機会は年ごとに少なくなってきたが、車に轢かれたり、頭を潰され畦道に干されるマムシの死体を時折見るから、野山に入れば毒蛇への注意を怠る分けにはいかない。草原や河原に連れ出す我が子に放つ第一声は決まって「蛇に気をつけなさい!」。子供は、広々とした自然を見るが早いか、リードを解かれた子犬のように一目参に走り出し、狂ったように飛び跳ね、見る見る遠ざかって行く。この世は余程ストレスだらけなのだろう。巷に溢れる子供を狙う凶悪犯、不条理に満ちた学校生活等々。コチコチの身を解きほぐしたくなるのももっともだ。蛇の季節の間は、親からだんだん離れすでに子犬となった影を絶えず目で追い、見境もなく藪に入ろうとする子に「危ないよ!」と大声で叫び続けねばならないから、花や虫に熱中はできない。
 木々の葉が色づき始めれば、もうこれからじっくりとカメラを構える余裕もできると思いきや、このまま温暖化が進めば真冬でさえ蛇の心配を怠れないのだろうか。
「冬の蛇」にレンズを向ける傍らに子供が覗きに寄ってきた。
 「ほら、冬でも蛇がいるから、気をつけるんだよ。」
 「大丈夫、云われなくてもちゃんと注意してるよ。」
背中越しに聞こえる子供の声が辺りに凛と響いた。子供の世界は、これから訪れる極寒の季節以上に厳しいらしい。
 ドンーと背中に覆い被さって来た我が子は、いつの間にかぐっと成長していたのだ。微睡んだシマヘビの瞳にビシッとピントが合う。シャッター音は、いつもより力強く「カシャツ」と鳴った。
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