Nature Photograph & Essay  里山自然探訪 2005年01月20日号
                                             撮影:神戸市西区/2005年01月13日
怒りの憂さ/イカル
 口笛を吹くようなイカルの鳴き声は、「キーコキー、キキーココー」と林に良く響き渡る。「月日星」とも聞こえるから「三光鳥」と呼ばれていたが、残念ながら、この美しい名はサンコウチョウに譲ってしまった。それはさておき、一度聞けば忘れられない特徴のある鳴き声。バードウォッチングを始めたばかりの人でも、姿を見ずとも声だけで種を言い当てられる親しみ深い鳥である。
 黒覆面の太い首、黄色い大きな嘴と、その姿もまた印象的。ムクノキやジュズダマなどの堅い種を好み、堅牢なイラガの繭さえもかち割って中の蛹を食べる頑強な嘴なのだ。上の嘴の溝に堅い種を押し込み、臼のように内側にカールした下の嘴で強く押し割り中身を頬張る。豆を口の中で何度も転がし、少しずつ皮を剥ぎ取って食べるから「マメマワシ」の俗称をもつ。スズメやホオジロの食餌のように、啄んだ物を矢継ぎ早に口の奥に放り込むわけにはいかない採餌法である。だから、相手の餌までも奪って腹を満たそうとするカラスやトビなどの鳥と違い、イカルの食餌は何ともたおやかに映ることになる。
 聖徳太子は、争わず穏やかに餌を食べるこの鳥の姿を、斑鳩の里に人々が和して暮らす理想郷に重ね見たとか。かつて、丹波の何鹿(いかるが)郡綾部はこの鳥が非常に多かったという。しかし、このイカルの楽園も、まだ記憶に新しい鳥インフルエンザの災禍で、嘴の先で豆を転がし、時折口笛を鳴らし、のんびりと平和に暮らすにはちと厳しくなったに違いない。太子のお墨付きの和を象徴する鳥なのだから、天から降ってきた災難に怒ることなど到底できまい。さすればそのやり場にと、大寒の空に「キーコキー、キキーココー」と何度も何度も叫んで憂さを晴らすしかないだろう。
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