Nature Photograph & Essay  里山自然探訪 2006年01月05日号
                                             撮影:兵庫県神戸市/2006年01月05日
天空の漁師/ミサゴ

 小寒は厳しい寒さの入り口。だが、陽の光はすでに春の訪れを先取りしていて、日毎に明るさを増す頃。生きもの達はそんな季節の変化をいち早くキャッチしてざわめきだす。
 耕作地に立つと、ため池のあるらしい上空のあちらこちらをミサゴが飛んでいる。空中で旋回、停飛、急降下を繰り返し、一心に餌探しの様子だ。いつものため池でも、大きなカモメのようなシルエットが2羽、時折白い腹を返しながら飛んでいた。
 ミサゴは海岸、河口、湖などの水辺に生息する。ワシタカ類では珍しく、餌は生きた魚だけ。このため池にやってくるのもコイ、フナ、ナマズ、そして、ブラックバスなどがお目当てのようだ。冬場、暖地でミサゴを見る機会が増えるのは、水面が凍結して餌のとれなくなる北海道などの北方の個体が、越冬のため南下してくるからという。世界的に海洋や池沼の汚染などの影響で個体数が減少し、日本版レッドデータブックでは危急種に指定されているミサゴだが、ここは日本有数のため池地帯だからだろう、ほとんど苦労もなく出合える野鳥である。餌が豊富で水深の浅いため池は、この猛禽にとって大変好都合な越冬地なのだろう。
 魚が好物という変わり者の猛禽のこと、その生態は独特。瞬膜を閉じればこれが偏光フィルターに早変わりし、旋回しながら水中の魚を探し出す。魚影を見つけると、高度を下げて空中停飛。両足を前に伸ばし水中に急降下し、獲物を目がけダイビングする。潜って漁のできる唯一のワシタカ類だから、「水深い」がその語源なのだとか。足の裏側はイボ状の鱗。内側の2本は前向きで、外側の2本の指はフクロウ類と同様前後に回すことができる。ぬめって滑りやすい魚をガッチリと掴む工夫を足に凝らしている。首尾良く魚を仕留めると、お気に入りの樹上や電柱の天辺に運んで食べるのである。
 見所一杯の鳥だから、出会えば何時しかカメラを向けている。毎度のことだが、盛んに飛び回るミサゴを上手くフレーミングするのは難しいから、当たるも八卦で何回もシャッターを押し続ける。帰宅後の大仕事は、ピンぼけの山にうんざりしながらの画像のチェックと削除だ。そんな作業の最中、ミサゴの尻の先から白蛇が飛び出しているかのような1枚がデスプレイに。ファインダー越しには全く気づかなかったが、停飛しながら羽ばたきを瞬間止めるような仕草をしたあのシーンだ。これは驚きだ。狩りの最中、大胆にも空中で脱糞をやってのけている。いや、鳥の排泄物に混ざる白い粘液状の部分は尿(尿酸)だから、大量の放尿というのが正しいだろう。アスファルトの路上などでよく見る、白い絵の具がペチャッと跳ね広がったようなハシブトガラスの糞や、白っぽい500円玉くらいのドバトの落とし物に比べれば豪快そのものではないか。
 これは正月から運が着いているのかも知れない。しかも、ミサゴはれっきとしたタカの仲間なのだから、「一富士、二鷹、三なすび」の吉夢まで見させてもらったということ。二重にありがたいものを拝めたのだから、今年は珍しく吉年かもしれないぞと、気分だけでも初春の日差しのように清々しくなったのである。 
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