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Jan.11,2004/フユイチゴ
 寒の内の灰褐色に染まった林を歩く。寒さの極の季節であるが、傍らの木々に目をやれば、芽鱗に包まれた小枝の先の芽も心持ち膨らみかけていて、陽も日ごとに長く、明るくなっていることを実感する。 雨の少ない林は厚く積もったコナラやアベマキの落ち葉が、歩くたびにシャキッ、シャキッと小気味よい感触で足の裏で響き、寒さも忘れさせてくれる。
 モノトーンの地味な色彩の林床に、時折フユイチゴの濃緑の蔓が目にとまる。甘酸っぱい実を期待して、分枝した茎を伝って行く。イクラを小振りにしたようなぷりぷりの果肉の粒が、如何にも食欲をそそる。真っ赤に熟れた寒苺を一粒摘み口にほおばると、果汁をたっぷり詰め込んだ薄皮が破れ、冷たい木イチゴのジュースが口の中にさっと拡がった。
 初夏に実をつける木イチゴ類はツキノワグマの好物で、ほ乳類に限らず、鳥や昆虫などたくさんの生き物の餌として重要な落葉性の植物である。一方、フユイチゴは積雪のほとんどない温暖な地域に生育する。補食者の活動の少ない真冬にわざわざ実をつける、木イチゴ類としては稀な常緑のこの植物。赤い実の秘密に自然と想いはおよぶ。冬眠をしないイタチやテンなどのほ乳類に食べてもらおうということだろうか。いやいや、もっと驚くような深い分けがあるに違いない。また一粒摘みながら、寒林の小さな恵みに秘められた謎を探るのも面白そうだ。