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Jan.25,2004/ジャコウアゲハ(蛹)
 広い水田の真ん中に、小高く土を盛った古い墓がある。この墓地にはエノキの巨木があり、古びた墓石の群を大きな両の手で守る樹聖のようにどっしりと立っていて、その際を通る度に自然と視線が向く場所である。
 その墓地に初めて足を踏み入れて驚いた。墓石にジャコウアゲハの蛹がついているのだ。周りを見渡すと、あっちもこっちも墓石は蛹をくっつけて立っている。まるで蝶の墓場だ。かつて日本では、蝶は死体から生まれると信じられ、縁起の悪い虫という俗信があったのだから、墓場に蝶の蛹があっても驚くことはないのだろうが、周りは枯れ草ばかりの生の臭いの全くしない場所に、これほどたくさん見つかると奇妙で不気味である。
 ジャコウアゲハの蛹を「お菊虫」という。「一ま〜い、二ま〜い・・・」の怪談「播州皿屋敷」でお馴染みの、あのお菊に因む名である。蛹は後ろ手にされたような形で、口元に当たる所に紅色の斑点があるから、愛した殿様に井戸に吊られて責め殺された不憫な姿に見えてくる。
 凍てつくような北風に気を取り直して想った。お菊を哀れむ蝶たちが、毎年ここに集まって弔っているのだと。そして、春には「山女郎」と呼ばれる可憐な姿となって草花の周りを優麗に飛び回るだろうと。