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Feb.08,2004/ガマ
  小さな川の端やため池の片隅で、ガマの小さな群落を時々見る。ガマの穂は独特の形だから、傍らを通り過ぎる間何気なく眺めてしまう植物だ。まあ、これくらいの興味で終わってしまうけれど、書物を紐解いてみれば、昔は人の生活と深く関わるものであったようだ。
 蒲焼きにも、蒲鉾にも蒲の文字が残るのは、穂のイメージからだろう。因幡の白兎がくるまったという穂綿は、座布団などの綿に使ったから蒲団も蒲がつき、硝石を混ぜて火打ち石の火口にもしたそうだ。赤く痛々しい因幡の白兎の皮膚を癒した雄花の花粉は、漢方で「蒲黄」と呼ばれる止血剤である。アイヌは真の草という意味のシ・キナと呼び、茎葉を乾燥させてゴザを編む最も良い素材なので、家の宝物の下に敷き、一番尊いキナ(草)なのだとか。
 草木の萌え出すのも間近い野辺は、樹も草もありったけのものを脱ぎ捨てている季節だから、光りの春の日差しが地の隅々に行き渡り、川縁のガマの蒲綿も一層目に留まる頃である。増水にも水没しないように、高い茎の上に掲げられる穂は、端から風にほぐれて綿屑のようにわき出して来る。少しずつ風任せに飛び去る種の灰褐色の飛跡は、人の営みとすっかり縁の切れつつある植物の別れ際の挨拶のようにも見えてくる。