ヒロヘリアオイラガの毒棘                      前ページ トップ 後ページ 
  前々回アップしたルリタテハの棘は見せ掛けの棘だったが、今回は痛い棘。

 庭のヤママモの葉にかなりの虫喰い痕がある。一番真新しい喰い痕を探し葉を調べてみると、小さな幼虫が葉先に頭を向け仲良く横に並んでいる。ヒロヘリアオイラガの若齢幼虫だ。目のような二つの黒い斑点。ぴょんと突き出た数本の角。まるで宇宙からやって来た不思議な生物のようで、ひょいと見にはなかなか愛くるしい。子供の反応はどうだろうと写したばかりの画像を見せてみる。やはり可愛いと見えるらしく、にっこりとして見入っている。カメラのモニターの画像を段々拡大して痛々しいトゲトゲがはっきり分かると反応はがらりと変わった。毒毛虫と知れて喜ぶはずもない。

 イラガのイラは刺草の刺から。この草の棘で痛い目に遭った人はもう二度とこの草は触らない。イラガの棘の痛さもこれに劣らず強烈だ。イラクサのように皮膚にが刺って痛みを感じるのではなく、イラガでは注射針のように空洞になった棘から毒液が注入される仕組みだ。激痛は一過性なのが救いではある。

 イラガの繭はスズメの卵風だが、ヒロヘリアオイラガの方はひしゃげた小鳥の卵型。公園や街路樹のケヤキや桜の幹を探せば、かたまって付いている灰褐色の繭が簡単に見つかるはずだ。上に穴の開いているのは羽化した繭の殻である。

 ヒロヘリアオイラガは日本では鹿児島市内だけに分布していたが、1979年頃から大阪、西宮、北九州の市街地で俄に発生するようになり、現在では東海地方にも広がっている。原産地は中国、インドだから、帰化昆虫の一つなのだろう。温暖化もまた分布の北上に荷担しているのかも知れない。これぞ、「嫌われ者世に蔓延る」の一例だろうか。
                                     〔撮影:2006年9月28日/兵庫県神戸市

ジョロウグモの交尾                           
  大きなジョロウグモの居る網に2、3匹の小さなクモが止まっているのを見て、クモの親子と思う人も多いのではなかろうか。夏の頃、雄と雌の大きさはあまり変わらないけれど、秋が深まるとその差は歴然。雄の体調は1p前後だが、雌はその3倍近くに成長する。秋のジョロウグモは正しく蚤の夫婦なのだ。

 我が家の庭にはクモの巣があちこちに張りめぐらされている。中でも一番多いのはジョロウグモの網だ。廃屋のようで見苦しいけれど、写真の題材用にとクモの巣はみんな放ったままだ。そのジョロウグモの網の一つにコアオハナムグリが網にかかった。「お、これはもしや。」と思ってカメラを構えた。雌が獲物に取り付くと、巣の上にいた雄がやおら近づいて来た。雌の背中に馬乗りになる。直ぐにするりと腹側に回った。そして、交尾に見事成功。

 多くの動物の交尾を考えれば、この画像を見て「え、これが交尾?」と思うに違いない。クモ類では、雄の交接器官は口の先の触肢で、雌は腹部下面前方に生殖口があるから、まるで母親の胸元で乳を吸っているようなこの姿こそ間違いなくジョロウグモの交尾の瞬間なのである。
 
 あまりの体長差だから、小さな雄は結構雌に食べられるそうだ。だから、一番の交尾のチャンスは雌の脱皮の最中。この時は雌が無抵抗だからだ。でもこの目の前の雄は、採餌に夢中になり注意が疎かになった隙を狙って上手く交尾に成功したのである。
 
 勝手に掛かった獲物を利用して自力で捕らえた獲物を雌にプレゼントして、雌の気を惹き交尾をするオドリバエなどに比べれば、雌の巣に居候しこそどろのようにて事を為し遂げるこのジョロウグモの雄は何て要領者なんだろうと思う。
                                    〔撮影:2006年9月29日/兵庫県神戸市

棘だらけのルリタテハの幼虫                       
  葉を半分ほど喰われたサルトリイバラがあった。きっとこれはルリタテハの幼虫の仕業だ。葉の裏を覗くと案の定幼虫がいた。

 数日前、妻が「裏庭のホトトギスにトゲトゲの幼虫が居たから始末したよ。」と言う。「あ、あ!それはルリタテハの幼虫・・・。」と、貴重な被写体を処分され落胆したばかりだったから、頭の隅に食草のサルトリイバラが気になっていたようだ。林を歩き始めて最初に出会ったサルトリイバラで、いとも簡単に幼虫を見つけ出した。

 C字に体を丸めて葉に止まった幼虫は棘だらけだ。仮に鳥が見つけたとしても、この棘だらけの虫を見つけたら直ぐに食べるのを止めるだろう。でもこれは見せ掛けで無毒だ。激痛を起こすイラガの棘や、痒みを引き起こすドクガの体毛とは違い、ルリタテハの幼虫は触っても何ら実害は無いから、手のひらに載せて観察しても大丈夫である。

 チョウ類にはヒョウモンやキタテハなどのように痛そうな棘を纏った幼虫がいるが、いずれも捕食者を脅すための見せかけの棘だ。だから、少しガサガサする位で触っても全く実害はない。

 ルリタテハの成虫は、翅を閉じている時は木の葉にそっくり。その地味な翅をパッと広げると、濃紺の地に鮮やかな瑠璃色の二本の帯が目を射る。このチョウは、成虫の翅の「隠蔽」、「びっくり」、そして、出来損ないのミサイルより遥かに優れた幼虫の棘による「脅し」と、天敵から逃れるための様々な工夫を持っているのだ。
                                    〔撮影:2006年9月23日/兵庫県神戸市
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