<里山自然探訪>

マヤラン                    前ページ トップ 後ページ
 20097月、チョウの調査中に、偶然にマヤランを確認する幸運に恵まれた。マヤランは明治12年(1879年)神戸・六甲の摩耶山で日本人により初めて採集された標本をもとに、1904年(明治37)、牧野富太郎の率いる調査チームによって採集され、新種として記載されたが、その後摩耶山では確認されていない幻のランである。
 1991年、兵庫県としては112年ぶりに上郡町で再発見された。県内ではこれまで、上郡町内を含めて5カ所で自生が確認されている。しかし、繁殖力が弱く、全国でも200株ほどしかないという、全国的に貴重な植物である

マヤランCymbidium macrorhizonは常緑林内に生える多年生の腐生植物で、本州(栃木県以西)、四国、九州、沖縄に分布する。常緑照葉樹林内の腐植質の湿った林床に生育し、菌類と共生する。シュンランの仲間だが、葉のない無葉ランであり、花時以外にはなかなか見つけるのは困難である。
 腐生植物は植物体に光合成で自活する能力がなく、菌類と共生して栄養素を得て生活する種子植物である。
マヤランの共生菌は、担子菌のベニタケ科(Russulaceae)、イボタケ科(Thelephoraceae)、シロキクラゲ科(Sebacinaceae)という菌類である。さらに、これらのキノコ類は特定の樹種の根のみで共生するため、マヤランの生育には、こららの二重の共生関係の成立が条件となる。
 地下に発達した多肉の根茎の先端部から、地表に
1030センチの花茎を伸ばし、7-10月に茎頂に1個から数個の花をつける。
花茎が緑色をしており、葉緑素を持っている。さらに、果実にもシュンランと同じように葉緑素があり、光合成によりタネを充実させ、養分を補っている。

                 
                      
 六甲山は、人による過度の森林資源の収奪の結果ついにははげ山となったが、先達のただならぬ努力によって再び緑の山に戻った。しかし、近代的な農林業の確立とともに、豊かな緑の山は見捨てられ、さらに思わぬ獣害が加わって、年々荒廃が進み、生物の住みにくい自然環境に変わりつつある。それでも、都市のごく身近にあるこの山には、貴重で魅力的な自然がまだまだ残されているはずだ。2009年に発見した三木市のマヤラン産地では、2010年にも引き続き開花が確認された。その確認場所は基産地」の六甲山地の周辺地域だから、摩耶山付近でのマヤラン再発見も夢ではないだろうと、希望が膨らむのである。  
                マヤランの生育環境 
参考:2009年7月の神戸新聞の記事
兵庫県レッドデータブックで絶滅危惧種の「マヤラン」が、三木市内で見つかった。発見例が少なく、詳しい分布や生態が不明なため、県立人と自然の博物館(三田市)は「特性を知る資料になる」としている。 マヤランはラン科の腐生植物。葉がなく、地中の茎が菌類から栄養を得て成長し、夏に直径4センチほどの花を咲かせる。1879年、神戸の摩耶山で初めて採集され、植物学者牧野富太郎がマヤランと名付けた。7月12日、神戸市西区の自然写真家今給黎靖夫さん(57)が、三木市東部の農道脇2カ所に4本の花茎を発見。その後、同博物館の鈴木武研究員がマヤランと確認した。マヤランは最初の発見以降、1991年に上郡町で見つかるまで確認されなかった。関東以南に広く分布し、かつて加東市などでも発見されたという。開花時期が約2週間と短いこともあり、発見例が少ないという。今回は農道脇で見つかっており、鈴木研究員は「身の回りに咲いている可能性もある。情報を寄せてほしい」と呼び掛けている。
                  〔撮影:2009年7月/兵庫県三木市
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