小さくても目立つミズヒキの花                             トップ
  我が家の庭を見て、「自然庭園ですね。」と評した人がいた。

  園芸種に混ざって、季節の折々に野草が花を咲かせる庭にしたいと思っているから、我が意を得たりと飛び上がりたいほど嬉しかったのだが、その人が言葉を重ねる内に、どうやら「雑草が勝手に茫々と蔓延った庭だ」と思ってのことだと判った。

 初夏には白いドクダミの花が、晩秋には黄色いツワブキの花が咲き乱れる庭だから、そう評されるのもご最もだ。「ナチュラル・ガーデン」と言えばトレンディでおしゃれな当世風の庭だが、これは○○チョウの食草だから、あれは○○カメムシが集まる草だからと、なかなか気軽に引き抜けないでいる内に雑草に埋め尽くされた庭。自然と言うより野放し状態なのだから、他人から見ればお世辞にも「季節の美しい野草が咲き誇った庭」には見えないのも当然だろう。

 こんな雑草園の中秋を彩っているのはミズヒキ。釣り竿の先のような細くて長い花序が幾本も並んで日陰を赤く染めている。少し撓んで30p以上にも伸びる花序に、6〜7o間隔に粟粒ほどの真っ赤な実が付いている。その所々に2o位の薄っすらと白味を帯びた花がひっそり咲いている。こんな存在感のない小さな花にちゃんと昆虫が集まるのだろうかと心配になる程頼りない花だ。だが、目を少し引いて群落全体を眺めるてみよう。濃い緑の葉群の上に林立する無数の花序の群は、辺りを真っ赤に染め尽くし否応なしに目を向けさせる。これを通りかかりの昆虫たちが見過ごすはずがない。ミズヒキの群落に昆虫は次ぐ次に誘い込まれ、きっとその小さな花に気づくだろう。大きなテナントに店を出していれば、どんな小さな店でも必ず人が通りかかる。でも、その先はお店の魅力次第だけれど。
 
 虫の目になってまた花を見る。まず、花序に付く赤い種(そう果)。花被片に包まれ、先に長めの釣り針のようなものが2本伸びている。これは花柱の名残で、獣などの毛に貼り付く工夫である。そして、小さな花。花弁に見えるのは4枚の花被片で、花弁とも萼とも区別が付かない花の構造である。その上の3枚は赤く、下の1枚だけ白い。赤一色の中で、その白い色こそ昆虫たちに花の所在をアピールするはずだ。

 細い花序にまばらに咲く様が祝いの品を飾る紅白の水引に見えるからミズヒキなどだそうだ。この4枚とも白いのが「銀水引」、赤花と白花が入り混ざって咲くのが「御所水引」。何とも風流な響きの花名だろう。ミズヒキは茶花、花材として使われる野草。薮に生える雑草だからとバカにしてはいけない。我が国では、庭の花木の下草、日陰の彩りとして古くから植えられ、時に切り取っては部屋を飾る愛される花の一つなのだ。繊細で美しいミズヒキがあるのだから、家人の目論見を悟り、「自然庭園ですね。」と言ってくれる人が現れるに違いない。
                                   〔撮影:2006年10月4日/兵庫県神戸市