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2001年12月

・ホトケノザは春の花との印象が強いけれども、晩秋から冬にかけても野原のあちこちで開花中のものを目にすることが出来る。秋に発芽して、幼苗で越冬し、春に開花するのが一般的だが、春になって発芽するもの、夏に発芽して年内に成長するものなどがあるため、真夏を除けばいつでも花を探すことが出来るというわけだ。コオニタビラコ(タビラコ)の古名はホトケノザで、春の七草はこれを指すという説が有力のようだ。ホトケノザは茎に陵があって、葉も沢山の毛に覆われ、見るからに触手が湧かないが、実際に食用にはならないという。種名の由来は、対生する葉を蓮座に、花を仏に見立てたもので、別名のサンガイグサ(三階草)は葉が段々につくことによっている(神戸市西区神出町/12月26日記)。

ホトケノザ

・モズの高鳴きのした辺りにマダケの竹藪があった。枯れた竹も立っていて、いかにもモズの早贄のありそうな雰囲気だ。あった。切り倒された枯れ竹の二股になった枝だの間にミイラ状のアマガエルが挟まっている。他にもないかと辺りを探すがこれっきりのようだ。都市近郊では、早贄を探すのも難しくなったているらしい。餌が少なくなったことばかりでなく、串差しにするための竹や有刺鉄線が身近に見られなくなったことも一因かも知れない(昔は有刺鉄線をいたるところに張り巡らしてあったものだが、危険の予測されるものはあえて使わないという風潮のためか見かける機会が随分減った)。早贄には習性説、貯食説、なわばりの目印説など諸説あるらしい。有り余るほどの餌がない都市周辺で早贄が少なくなったことは、食べ残し説を裏付ける一つの根拠ではないかと半ば干涸らびた蛙を見ながら思えてくる。モズの鋭い嘴や爪を見れば、かつて猛禽類の一種とされモズタカと呼ばれていたことがうなずける。姿ばかりでなく、高い枝の上から獲物に飛びかかったり、停飛して餌を狙う行動も十分それを納得させものだ。とはいえ、凛としたこの小さなハンターもこの世の暮らしとなれば、どうやら人間同様に大変なことのようだ。(神戸市西区神出町/12月19日記)

モズの早贄

・林道沿いに植えられたサザンカの花でオオスズメバチが花蜜を舐めていた。頭部や脚は黄色い花粉だらけで、まさに貪りついているといった様子である。夏であれば、人が近づこうものなら直ぐさま体を震わせて威嚇するけれども、花心に頭を突っ込んでただ無心に舐め続けているのは寒い冬のせいばかりだろうか。秋に羽化して交尾を終えた雌は、寒い冬を朽ち木の中などで乗り切るために、どん欲にエネルギーをため込んでおかなければならないということなのだろう。(神戸市西区神出町/12月16日記)

オオスズメバチ (注)神戸海洋気象台によれば、神戸の最高気温は10.1℃であった。

・北風が益々冷たく感じられるようになったら、春日に誘われて賑わった帰り花も、もうすっかり勢いを失ったようである。畦周りは枯れ草が目立ち、傾きかけた陽の光にセイタカアワダチソウやシロノセンダングサの種子が輝いている。種子の先を注意深く見れば、銀色の棘が鋭く光っている。人や動物にしっかりとひっかかって、守備良く種子を拡散して貰う工夫だ。触るとネバネバとした粘液まで着いている念の入れようだ。繁栄する植物の知恵に寒さも忘れるほど感心してしまう(神戸市西区平野町/12月15日記)。

シロノセンダングサ

・大雪を過ぎ、北から吹き付ける風に冬の深まりを感じる。セイタカアワダチソウもすっかり枯れ草となり、霜を浴びたように寒々しい。それでも日だまりには、まだまだ元気な野草もあって嬉しい。ウシハコベもそうした植物の一つである。ハコベの仲間は光周性がなく、温度によって花芽が成長する。ハコベは春の七草として知られるから、ハコベ属は春の花のイメージが強いけれども、温暖な場所で有れば真冬でも花を見ることが出来るわけだ。ハコベは「ヒヨコグサ」とよばれるように、ニワトリ、小鳥、ウサギなどの飼料としてなじみ深い。また、七草粥の材料ばかりでなく、汁の実、一夜漬け、煮びたし、和え物などとしても利用されている。ウシハコベやコハコベもハコベよりやや堅いが、食材として同じように使えるらしい。冬陽の下で野趣を探すのも一興かもしれない(神戸市西区神出町/12月9日記)。

ウシハコベ(5本の花柱がある。ハコベやコハコベの花柱は3本である。)

・コナラやアベマキの林はすっかり葉も落ちつくし、林床には新しい枯れ葉が降り積もり、歩くたびに「カリ、カリ」という乾いた音が足の裏で響いている。 木の葉の遮蔽物が無くなり十分に明るい陽の光を浴びるようになった林のあちこちで、淡黄褐色の小さな蛾が飛び回っている。地面の枯れ葉の上や林縁の木の葉で日光浴をしていて、人の気配に驚いて飛び立ったクロスジフユエダシャクというシャクガ科の一種だ。他の昆虫の活動のほとんど見られない晩秋から早春に羽化する「冬尺蛾」という蛾の仲間である。多くの種が口器は退化して食物を摂ることが出来ず、雌の翅は縮小か欠除していて飛ぶことも出来ないという変わり者の蛾の仲間である。寒さに良く適応した蛾で、−2℃で飛翔する雄や、−6℃でも歩くという雌の研究報告もある。越冬昆虫の凍結は消化管内の残留物が凍結核となってはじまるらしい。口器や雌の翅を退化して体表面積を小さくしているのも、耐寒性を高める工夫の一つなのだろう。競争相手が少ないという季節的な隙間(ギャップ)を生息空間とする昆虫の様々な知恵を観察するのも面白いものだ(神戸市西区神出町/12月2日記)。

クロスジフユエダシャク

2001年11月

・ため池の縁を歩いていると、ノイバラの赤い小さな実が目に飛び込んできた。葉のかなり落ちた茨のあちこちに、丸い粒の塊が冬の日を浴びてピカピカに輝いている。この実も今はまだ堅いが、霜をあたるにつれ柔らかくなり甘みを増すという。ノイバラは耐寒性を向上させるバラの台木となり、花は香水の原料に、実はビタミンCの豊富な果実酒に利用されたりと、随分有用な植物である。ところで、果実のように見えるのは実は偽果で、萼筒が肥大して液果状になったものだそうだ。ノイバラばかりでなく、花托が発達したイチジク、核内の子葉が可食部分であるクルミ類など、植物の様々な部位が果実となって人や動物の食べ物となっているのである (神戸市西区神出町/11月29日記)。

ノイバラ

・冬の深まりと共に空は青く冴えわたり美しい。北風を遮る林の隅の日だまりはあたかも春の野原のようで、ノミノフスマ、カンサイタンポポ、ホトケノザなどの返り咲きで染められている。とは言え、時より吹き込む風は冷たい冬そのもので、草の葉陰のキチョウはそばまで近づいても少しも動こうとしない。俳界の「凍蝶」はこうした「冬の蝶」であろう。冬の寒さで動きの絶えた虫に因んだ季語に、「凍蝿」、「凍虻」、「凍蜂」などがある。様々な虫達のこうした姿を写しとどめるのも、一寸趣がありそうだ(神戸市西区神出町/11月28日記)。

キチョウ

・早朝に起き出して、しし座流星群を見た。周りの照明の多い家のベランダからの観察なので、半信半疑で夜空を仰いだが、直ぐに流れ星が見つかった。明るさ、量共に期待以上で、寒さを忘れて見とれてしまった。デジカメで長時露光で撮影を試みたが、テレコンバータを着けたのが災いして流星群を写し留めることはできなかった。大量の流れ星とはいっても何処に飛び出すか予想できないのだから、視野の狭い望遠よりも、広角系のレンズで狙った方が良かったようだ。副産物は冬を代表する星座、オリオン座。西に傾いた縦長の四角形が南西の空に輝いていた。上の柿色の星がベテルギウス、下に青白く光るのはリゲル。中央の「三つ星」をはさんで対峙するところから、ベテルギウスを「平家星」、リゲルを「源氏星」と呼ぶ地方もあるという(神戸市西区/11月19日記)。

オリオン座(三本の斜線は残念ながら電線です)

・かなり枯れ草の多くなった畑の隅にヒメスミレの花を見つけた。スミレの返り咲きは春のスミレ前線とは逆に、9月頃に北の標高の高い所から始まり、本州の低地では11月頃に南下してくるという。スミレ類の花は、冬を除けばほぼ1年中見られるらしい。もっとも、花弁のあるいわゆるスミレの花は春先に見られるが、その他の季節は萼片の中にしまい込まれたままの閉鎖花なので、暑い季節にはスミレの花園を見ることはできないのである。閉鎖花は自家受精でほとんど結実し、大量の種子を作ることができる。ではどうして効率的で省エネルギーの閉鎖花ばかりにならないのかというと、開放花は他花受精であるから、他の個体との交配によって遺伝的多様性を高め、子孫の繁栄につながるからである(神戸市西区岩岡町/11月5日記)。

ヒメスミレ