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2002年5月

・田植えの始まる頃、どこからとも無くやって来るアマサギ。「一体何処で見ていたのだろう」と、田起こし作業のトラクターの後ろをついて歩く群を見ながら、毎年この頃繰り返される自然の不思議である。もともとこの鳥はアフリカ周辺に生息していたが、1930年代ころから次第に生息域が拡大し、今では5大陸で見られるという。日本では第二次世界大戦後急速に個体数が増え、本州から九州で繁殖している。さらに、1973年ころからは北海道でも観察されるようになった。サギ類の多くは水辺に依存するが、この鳥は草原を歩く大型草食獣に驚いて飛び出す昆虫などを餌にする草地の鳥なのだ。多くの水鳥が生息地の減少などで危機に瀕しているなかで、この鳥が繁栄を続けるのはなぜだろうか。どうも、トラクターがヒントになりそうだ。前世紀に機械化された大規模農業が発展し、人為的な大きな草地が世界中に出現した。さらに我が国の近代の稲作では、灌漑設備の充実により、収穫後の水田は晩秋から春に水の満たされることもなくなった。この間、草地性の昆虫類にとっては、そこは絶好の生息環境だ。初夏、機械仕掛けの牛の後を歩けば、人が造り出したそこそこに生き物のすむ水田という草地で、苦もなく餌にありつけるというわけだ。アマサギの現状は、帰化生物の侵入と繁栄のメカニズムに良くにていると思えてくる(神戸市西区/5月13日記)。

アマサギ

2002年4月

・冬鳥の去った水田は鳥の種類が随分と少なくなった。だが、繁殖期のヒバリやケリの「ピーチク」、「ケリケリ」という鳴き声で寂しさは皆無である。代かきに備えて、水田のあちこちでトラクターが土を掘り返している。その傍らでケリの親鳥が警戒音を発しながら、上空を激しく旋回する。この近くに育雛中の親鳥か巣立ち雛がいるのだろう。ケリは播磨地方の平地部では割合普通に見られる鳥だが、関東以北ではあまり見かけることはないらしい。日本では局地的に分布する、むしろ少ない部類の鳥なのだそうだ。以前は北関東から東北地方で繁殖し、西日本では冬に漂鳥として観察されていたが、近年ではこれまで繁殖の無かった北陸、東海、近畿地方で普通に繁殖が見られるようになったらしい。作業を一羽の親鳥が見詰めている。何とも心配気で、初春と比べれば幾分やつれたようなその横顔。その先で小さな雛が地面を突きながら餌を探している。この雛が耕耘される前に一人前に育つのかどうか、次第に近づいてくるエンジン音を聞きながら、こちらもちょっと心配になってくる(神戸市西区/4月30日記)。

ケリ

・連日の春とは思えぬ暑さで、林は若葉色に染めつくされ、林縁には青紫のフジの花房が揺れいる。野山はすでに初夏の気配である。アベマキの大木の新葉もすっかり広がり、柔らかい風にそよぐ。その大木を見上げると薄緑の濃淡がチラチラと眩い。葉を追ううちに、オトシブミの揺籃が目にとまる。鮮やかな緑の葉上に、アシナガオトシブミの赤い翅鞘が鮮烈だ。器用に葉を切り裂いていく小さな細工師の、寡黙な「落とし文」作りを見つめていると時を忘れる程だ。若葉の芽吹きと共に越冬から目覚めた成虫は、柔らかな新葉がごちそうだ。若葉が伸びきると、この緻密な作業の最盛期となるのだ。揺りかごの中に産み付けられた卵は間もなく孵化し、ベッド兼用の餌を食べながら順調に成長を続ける。その夏、この中で羽化した成虫は揺籃から脱出し、林の何処かに身を隠して翌春まで仮眠してしまう。夏の深まりと共に次第に硬化した葉は、この虫はお気に召さないのだろう。柔らかな餌に恵まれる芽吹きから若葉の時だけが、成虫も幼虫も活動の季節というわけだ。これも林の変容を驚くほど上手に感知して生きる虫の知恵である(神戸市西区/4月23日記)。

アシナガオトシブミ

・白いレンゲソウを見つけた。赤紫の花群の中に一株だけぽつんと咲いていた。白いレンゲソウを見つけると幸せになるらしいが、初老の紳士はあまり期待しない方が身のためだ。稀に白い個体の現れるアルビノ現象はライオン、スズメ、アマガエルなど新聞やTVの話題に上ることも多い。動物の白化は大半致死遺伝子を伴うので、そうそうお目にかかれない。植物の白化は動物と比較すれば少なくないのか、野歩きの好きな人であれば、ツユクサやノアザミなどの白い花と遭遇し、宝物を見つけたように歓喜した経験もあることだろう。レンゲソウの花色の赤紫は白に対して単因子優性で、ほとんど虫媒花で他家受精するから、白いレンゲソウの発現頻度は少ないのである。レンゲ畑に暫く座っていると、ミツバチやチョウが花から花へ盛んに飛び回って吸蜜している。赤紫に染められた海原に漂う桜の花弁の一ひらにすぎない白い花の雌しべは、食欲旺盛な虫達の体中を黄色く染めた赤紫の遺伝子に瞬く間に塗りたくられてしまうのだ。白花の株は葉や茎も薄緑で、生育力も弱いという。白い色は清潔、純血のイメージの裏に、ひ弱さや滅びの陰を引きずっているのであろうか。自然の摂理の前には、微かに紅をさした白いレンゲ畑は叶わぬ夢のようだ(神戸市西区/4月7日記)。

白いレンゲソウ

2002年3月

・「むしくさちょうじゅう」はこれまで身近な自然を気まぐれに色々記録してきて、花、鳥、風は何とか集積されつつあるが、天体の知識がほとんど皆無なので、「月」が全くだめである。素人にも何とかなりそうな月の写真を今度の満月にと思っていた矢先、「今日は土星食で、7時45分頃・・・」とTVのニュースの声!。ビールの入ったコップを投げ出すようにして、車に入れっぱなしの三脚を取りに走った。ようやくカメラがスタンバイ出来たのは、もう土星が月の陰から出る頃。夢中で20分位シャッターを切り続ける。超俄天文ファンはやっぱりドジを踏む。カメラの露出補正が+2のまま。モニターに写るのはどれもこれも囓りかけの真っ白いお饅頭ばかり。ガッカリしながら、月からだいぶ離れた土星を写す羽目となった。もっとも、今回の土星食は関東地方以北でのことで、西日本では1月25日の未明に観測されたらしい(神戸市西区/3月20日記)。

3月20午後7時58頃の月と土星(クリックすると画像が拡大します)

・冬鳥の渡去の季節となったが、ため池のカモ類の観察はもう少しの間楽しめそうだ。ハシビロガモは晩秋にやってくるカモの一番手の一つだが、直ぐに他所に移動してしまうのか、じっくり見る機会が少なかった。公園などで餌付けされたハシビロカモをTV映像で見る度に、これほど間近で見られるカモなのかと驚くことも多かった。いつも通り過ぎている小さな池で、コガモと一緒にいる群を見つけた。車道間近の岸際で無心に採餌していた。これなら十分に観察が出来る。このカモの和名は平たく大きな嘴に由来するが、その両端は櫛状の構造をしていて、これが採餌と深い関わりがある。首を水面と平行に突き出して、少し左右に首を振りながら水面をさらってゆく。湖面に浮いている植物の破片やプランクトンなどをこの櫛のフィルターでこしながら餌を採るというわけだ。時々頭を下に向けて、餌と一緒に吸い込んだ水を嘴の先からはき出している。嘴の中を良く見れば、下の嘴が水の流れやすい4本のU字になっているのがわかる。何とも上手くできたものだと感心するばかりだ。隣のコガモも同じように水面に浮いた餌を食べているが、こちらは時たま逆立ちして半身を水中に突っ込んだりもする。カモ類の餌の採り方には、他についばみ、潜水というのもあって、合わせて4のパターンに分類されるという。同じため池の中で、色々な種類のカモが暮らせるのは、主な餌が水草だったり(植物でもカモの種によって、種、葉、茎など部位による好みもあるらしい)、水生昆虫 であったり、プランクトンであったりと、それぞれ微妙に異なるからであろう。何ともユーモラスな嘴を見ながら、同じ生息空間を採餌の差異によって上手く棲み分ける仕組み、食のニッチ(生態的地位)を目の当たりに学ぶことができるのはありがたい。(神戸市西区神出町/3月15日記)。

ハシビロガモ(♂)の嘴

・先週の休日を流感で棒にふった子供も退屈そうなので、いつもの散歩コースを稲美町まで伸ばしてみた。少し西に行くだけで畦の彩りも不思議と多様に見える。早速子供がナナホシテントウを見つけて大喜びする。目の前をツマキチョウの白い飛影が通り抜けた。お暖かな日和に、オオイヌノフグリもいつもより花弁を大きく開いて、サファイアのような青い光が辺りに輝いている。この花を見る度に脳裏を過ぎるのは、その姿にあまりに不似合いの和名のことである。以前、「草のページ」にこれから「ルリカラクサ」と呼びたいと書いた。「ほんとの植物観察」(室井、他 1997)という本に紹介されていたものの一つだ。このことをアップして直ぐ、「ルリカラクサ」は園芸種のネモフィラ(Nemophila)のことで、すでにこの名が普及しているとのご指摘をなずなさんに頂いた。何か良い名は無いものかと考えるうちに、春も幾度か迎えてしまった。先日、たじまもりさんもこの花のことを話題にしていて、氏は以前から「ルリクサ」と呼んでいる。但馬の仲間内では通用しているという。同県の自然好きの考えた良い和名だと思う。何度となく被写体になってくれたコバルトブルーの宝石、私も「ルリクサ」と呼ぶことにしよう。そう、そう、「草のページ」も早々修正しておかなくては・・・(加古郡稲美町/3月9日記)。

ルリクサ(オオイヌノフグリ)

・桃の節句の野辺を歩いた。畦にカンサイタンポポがパラパラと咲いている。レモンイエローの花冠は柔らかな日差を浴びて眩いくらいに輝く。オオイヌノフグリの花も日ごとに数を増し、褐色の枯れ野ももうすぐ幕引きのようだ。日だまりでは、2頭のヒメアカタテハがもつれ合うように飛び回っている。俄に蔓を伸ばして始めたカラスノエンドウの若草色の絡まりをナナホシテントウが忙しく歩き回っている。啓蟄を前に、虫達はすでに巣籠を終えてしまったようだ(神戸市西区神出町/3月3日記)。

カンサイタンポポ